210×297mm 64page 伊勢和紙、縫合写真、四つ目和綴写真集 2024
これは目的をもたない移動の記録です。
僕は今、週2回満員電車に乗って通勤しています。車内では本を読んだり、音楽やラジオを聴いたり、最近はもっぱらNetflixを見ています。Netflixは僕が見るほどにレコメンドの精度を上げて、1つの動画が終わると静かにバーが減り始め、自動的に次の動画へとノンストップで流れ続けます。それでも減速するたびに触れる他人の背中や、知らない人の家のキツめの柔軟剤の匂いが、僕の意識をスマホの中から電車の中に引き戻してきます。その時に電車の窓から見える景色が綺麗だと、何故だかやるせない気持ちになります。そんな話をアートユニットukiの相方である清人にした時に、本当は満員電車に乗って通勤なんてしたくなかった事に気づきました。そんな風に自分の感情に後から気づく気質なので、しばしばこういうことがあります。そして往々にしてそれが作品を作るきっかけになります。 通勤、通学、通園、通院など基本的に僕たちは何かをするために移動しています。
次のメモは僕が電車に乗って目の前の7人席を観察した時のものです。
5スマホ・1寝る・1外を見る
2スマホ・2寝る・2本を読む
3スマホ・1 寝る・1 本を読む・2談笑
6スマホ・1寝る 7スマホ 5スマホ・2寝る
ここからもわかるように移動自体に関心がある人は少ないようです。僕たちは移動の時に何を見ていて、何を見ていなかったのでしょうか。それを撮るためにルールを決めました。移動に目的をもたないこと。移動すること自体が目的で、それに集中すること。そして写真を撮るときは必ずファインダーを覗くこと。そうやって撮影したのが今回の写真です。働かないのに会社に行ったり、会期が終わったギャラリーに行ったり、予約がまだの歯医者に行ったり、浜辺まで行って海を見ずに帰ったり。このトンチンカンな移動は大きなドラマは何も起こらず既視感と小さな発見の連続でした。でも僕にとってはそれを見ることが大事で、撮ることが大事なことでした。 箱の中の猫の話があります。箱の中の猫は観測者が箱を開けて、猫を見て、そこではじめて存在が確立します。僕は今回ただ箱を開けたくて、箱を開けました。するとそこでハトが羽ばたいていました。それはあなたが最初のページで見たハトです。